
「今度キャンプ行かないかい?」
「やったことないけど面白そうだな」
そんな何気ない会話が、僕らオッサン3人を静岡の山奥へと導いた。
彼らとは小学生の頃からの付き合いだ。
ランドセルを背負って、よく4人で駄菓子屋に走った。
くじ引きでお小遣いを全部使ってしまったり、
「このお菓子うまいぞ!」と笑い合った日々。
それが、今では娘たちの話をしながらテントを張る年齢になった。
今日は、亡き親友の分も含めて3人でキャンプに来た。
……と言っても、健太は少し遅れてくるらしい。
場所は静岡の山奥。
森は静かで空気は澄んでいる。
ヒロと先にチェックインを済ませ設営に取り掛かる。
だが、生憎の雨だった。

「おかしいな、予報だと午後は晴れだったのに……」
山の天気は気まぐれで予報なんてあてにならない。
僕らは雨具を着込み荷運びから設営を始めた。
ヒロとはキャンプに行ったことはなかったけれど、
中学の頃同じ剣道部だった。
部活後のモップ掛けを一緒にやった記憶が雨音に混じって蘇る。
あの頃も無言で並んで床を拭いていたっけ。
今も変わらず黙々とテントを張る。
設営が終わりコーヒーを淹れる。
湯気の向こうでヒロがぽつりと最近の話を始めた。
他愛もない世間話。
それが妙に心地よかった。
天気も次第と晴れ間を見せ雨は上がった。

しばらくして健太が到着した。
彼は、最近四輪駆動の新車を買ったらしい。
キャンプにぴったりの車だ。
だが、出発前に奥さんに見つかり、
「新車でキャンプはダメ!」と一喝されたそうだ。
結果、奥さんの軽自動車で来ることに。
「新車で来たかったなぁ…」
ぼやきながらも焚き火周りの設営を始める健太。
その姿に僕らは笑いながら手を貸した。

「腹も減ってきたし、そろそろ焚き火でもするか」
火を起こし、BBQが始まる。
肉の焼ける音と香ばしい匂い。
夜が静かに降りてくる。

焚き火の炎が揺れる。
その灯りの中で僕らは語り始めた。
仕事のこと、家族のこと、夢のこと。
そして、あいつのこと。
健太は娘の成長に驚きながら、
「最近、反抗期でさ……でも可愛いんだよな」と笑う。
ヒロは、チェコにいる娘の話をしながら、
「俺も、もうちょっと頑張らないとな」と資格勉強への決意を語る。

そして、亡き親友の話になると、みんな少し黙った。
「最後まで俺らのこと心配してたよな」
「うん……あの時、手握ったらさ、俺の体調気にしてくれてさ……」
焚き火の音だけが静かに響いていた。
キャンプはただのアウトドアじゃない。
僕らにとっては人生を語り合う場所。
亡き友を偲び、今を生きる自分たちを見つめ直す時間。
人生は山登りのようなものだ。
こういう時間が、自分が今どこにいるのか、
道は間違っていないのかを確認させてくれる。

「この空間がさ……なんか、すごく幸せだよな」
健太がぽつりとつぶやいた。
ヒロも「うん、なんか……生きてるって感じする」と応えた。
僕は、焚き火の炎を見つめながら思う。
この時間をずっと忘れたくない。
そして、あいつにも届いてほしい。
「俺たち、ちゃんと生きてるよ」って。
