くねりと曲がった山道を、僕は静かに車を走らせていた。
窓の外では木々の隙間から木漏れ日が差し込み、ダッシュボードに柔らかな光を落としている。
その光が、助手席のしっぽ達の毛並みをきらりと照らすたび、僕の胸は少しずつ高鳴っていった。
今日は、初めてのソロキャンプ。
一人でキャンプなんて、正直なところ不安もあった。
けれど、あの日、妻が言ってくれた言葉が背中を押してくれた。
「行きたいんだったら行ってくれば?後悔するより行ってきなよ」
その言葉に、僕は車にギアを積み込み、しっぽ達を乗せて、山へ向かう決意をした。
コメリで炭と薪を調達し、キャンプ場に着いたのは昼過ぎだった。
平日ということもあり、駐車場には僕の車だけ。
まさかの完ソロ。
ソロキャンプデビューが、いきなり“完ソロ”とは。

でも、心細さはなかった。
隣には、炭次郎と伊之助のように元気なしっぽ達がいる。
彼らの存在が、僕の不安をかき消してくれる。
テントを張る場所を探していると、ふいに声がした。
「ここは初めて?」
振り返ると、そこにはひげをたくわえた山男風の管理人が立っていた。
その眼差しは、どこか優しく、山の空気のように澄んでいた。
「ここのキャンプ場も初めてなんですけど、ソロキャンプ自体が初めてで……」
「そうなんだ。じゃあ、今日は私も管理棟にいるから、何かあったらいつでも来てね」
その言葉に、少しだけ肩の力が抜けた。
設営は、ワンタッチタープとワンタッチテントのおかげで驚くほどスムーズだった。
インフレータブルマットとシュラフを広げ、あっという間に僕の基地が完成する。

しっぽ達は、管理人の計らいでドッグランを自由に駆け回っている。
その姿を眺めながら、僕は椅子に腰かけ、コーヒーを一杯。
静かな森の中、湯気の立つマグカップを手に、僕は思った。
「これだよ、これが欲しかったんだ」

火起こしには、ユニフレームのチャコスタを使った。
煙突効果で、火はすぐに安定する。
前回の失敗が嘘のようだ。

ジュウ、と音を立てて焼ける黒毛和牛。
その香りに、しっぽ達も鼻をひくつかせている。
ビールを開けて、ひと口。

「うまい……」
この瞬間のために、来たんだ。

夕暮れが近づくにつれ、空の色が変わり始めた。
雲が厚くなり、ポツポツと雨が降り出す。
シャワーを浴びて戻ると、テントの中にいるはずのしっぽ達が、雨の中で大はしゃぎ。
泥だらけになって僕に飛びついてくる。
「おいおい……」
笑うしかない。
でも、どこか嬉しい。

夜。
雨は激しさを増し、雷が空を裂いた。
「ドオオン!」
地響きのような音に、僕はテントの中で身をすくめる。
しっぽ達も不安そうに僕の足元に寄り添ってくる。
これは……撤収だ。
滝のような雨の中急いで荷物をまとめ、車に乗り込む。
地面から跳ね返った雨のせいで泥だらけのまま、山を下りる。
山を後に脱兎のごとく帰宅すると、待っていたのは雷帝のごとく怒り狂う妻の雷だった。

「何やってんのよ、あんた……!」
でも、僕は心の中でつぶやいた。
それでも、楽しかった。
🌲エピローグ:しっぽと僕の、またひとつの思い出
初めてのソロキャンプは、完ソロで、泥だらけで、雷に追われた。
でも、しっぽ達と過ごした時間は、何にも代えがたい宝物になった。
次は晴れの日に、もう少しだけ慎重に。
でも、また行こう。
しっぽ達と一緒に。
🎭登場人物紹介

👨⚕️僕(主人公)
医療系の仕事に従事するキャンプ好き。
日々の忙しさの中で自然に癒しを求め、週末にはしっぽ達とアウトドアへ。
几帳面で計画派だが、しっぽ達の予測不能な行動に振り回されることもしばしば。
焚き火とコーヒーが至福の時間。
🐶しっぽ1(メス)
芸達者で、びっくりするほどの賢さを持つ。
生後3か月の頃、サークルフェンスをはしごのように登って脱走した伝説の持ち主。
「おすわり」「ふせ」「ハイタッチ」などは朝飯前。
キャンプ場でも好奇心旺盛で、ギアのチェックは欠かさない。
- 得意スキル
- 死んだふり
- ホフク前進
🐶しっぽ2(オス)
ちょっとおバカさんでビビり屋。
雷やシャワーの音に怯えるが、家族の中で一番優しい心の持ち主。
誰かが落ち込んでいると、そっと寄り添ってくれる癒し系。
キャンプ場ではしっぽ1の後ろをついて回るのが定番。
- 得意スキル
- なし
👩雷帝の妻
家を汚されると親の仇のように怒る、雷の化身。
普段は穏やかで優しいが、泥だらけの帰宅には容赦なし。
「掃除したばっかりなのに!」が口癖。
それでも、家族思いでしっぽ達にも深い愛情を注いでいる。